黒柴カナデ、試練は続く。
2022年1月18日
住まいのある自治体では、住民一人あたりの犬の登録数の割合が全国で最も高い。
これは、街を歩けばイヌだらけ、と言っても決して大袈裟ではないのだ。
しかも大型犬が多い。
ラブラドールやゴールデンはもちろんのこと、シェパード、ドーベルマン、フラットコーテッド、アイリッシュセッター、シベリアンハスキー、バーニーズマウンテン、アメリカンピットブルテリア、犬種を挙げればキリがない。
グレートピレニーズ、グレートデン、セントバーナード、などの超大型犬もいる。
セントバーナードが普通車のセダンに乗り込む所を偶然に見たことがあったが、よっこいしょっ、と後部座席に座ると、グンと車高が下がったのには目を見張った。
「カナデさん、君はもっと犬に慣れないといけないよ、だって、犬なんだからさ。」
と、言ったところでカナデは(......。)
柴犬は神経質なところがあるし、防衛本能も強いから、公共の場でヨソの犬に吠えかかってはいけない。相手の犬の性格次第では攻撃対象となり危ないからだ。
「今日の散歩は車で隣町の浜に行くよ。」
カナデは機嫌良く座席に乗った。「カナデ、揺れるからお座りして。」
(それもそうね。)と、カナデは素直に座り、フロントウインドウ越しに進行方向を見つめている。
車を停めて「着いたよ。」と僕が言うとカナデは立ち上がってソワソワしている。
「ちょっと待ってね、ハーネスにロングリード付けないと。」(もう、早くしてよ、待てないわ。)
カナデは地面に降り立つと、ドーッと駆け出して行く。
すると、(ン?)と、急に片手を上げたまま止まって耳や鼻をピクピク動かした。
遠くには駆け回る数匹の犬の姿が見えて、時折風に乗って吠え声が聞こえてくる。
(ジロさん、まさかアタシをあそこに連れ行く気?)「そうだよ、皆んな優しいよ、たぶん。」(えー、ヤダヤダ、だって怖いもん。)「大丈夫だって、友達作らなきゃ。ほら、行くよ。」
僕はリードを引いて励ました。
おっ、見知らぬヤツがやってきたぞ、とばかりに気が付いた4頭の犬達が駆け寄ってくる。
(ヒエ〜、こっちこないで!)
カナデは尾を下げて逃げ回った。距離を詰められると、歯を見せて唸り声をあげる。
犬達の輪の中には僕の友人がいて彼が飼っているミックス犬のバン君がヤンチャして、遊ぼ〜と、カナデに突っ込んで行った。「バン、やめなさい!怖がっているでしょう!」と友人が一喝すると、バン君は遠退いた。
カナデは臆病だけれども機転が利く。叱ってくれた友人にまずは近付いて、早速挨拶を済ませた。
ようやく、カナデの尻尾は徐々に上向きになり、犬達が近付くのを少しずつ許してゆく。
カナデさん、その調子だ、犬友を増やそうね。